※以下は、ドキュメンタリー映像「集学校プロジェクト2年間のあゆみ(2017年4月~2019年8月の記録)」を文字起こししたものです。DVD郵送をご希望の企業・自治体の方は、こちらからお問い合わせください。

 

ここ、一体なんだと思いますか?

集まる学校…集学校(しゅうがっこう)、でしょうか?古い小学校の看板もあります。

看板以外は、普通の学校ですが…。

中に入ると…。

スタッフ「サインアウトを選んでいただいて…シャットダウンを選択…はい、大丈夫です。お疲れ様でした。」

地域住民の男性「この学校ができて、暇していたので喜んで来ているんですよ。表計算を自分でやってみようと思って。」

スタッフ「入力のところからでしたもんね。」

地域住民の男性「ええ、ゼロからですから。」

男性は70代。ここに来て、初めてパソコンに触れたといいます。

スタッフ「何でも気軽に聞けるところにしよう、と。(私の)父母が同じくらいの世代で、やっぱり実家に帰ると『スマートフォンの…』っていう風に言われるんですけど、聞いて良いのかなっていうのがたぶんあって。息子や娘に聞きづらいことを解決できる場所があるのは、良いことだと思います。」

高齢者のための施設でしょうか?でも、なんだかコミュニティセンターのような雰囲気も…。

あ、奥に男の子の姿が!パソコンの勉強でしょうか?

男の子「友達が来てるから行ってみようと思って。それで、来たら楽しくて。」

インタビュアー「何が良い?」

男の子「ここにいる人が親切。」

友達とここで、待ち合わせをすることも。彼には、IT機器が使える遊び場のようです。

大人でも子どもでも利用できて、使い方は人それぞれです。

ここは、もともと廃校となった小学校。今までにない、集学校というかたちで活用が始まっていました。

 

企画、運営するのは、リングロー株式会社。

中古パソコンや、スマートフォンなどを全国で販売しています。自社工場で、中古品を修理・クリーニングして販売。まだ使えるものを廃棄するのはもったいないと、2001年から事業を始めました。

そんな中、目が向いたのが廃校だったのです。

代表・碇「学校として賑わっていたものが、火が消えてしまって、なんとなく町も寂しくなって。そういうのをまた復活できるのは、自分たちがもともとやっていた事業に近くてリンクするものがあるから、使えなくなった廃校も、形を変えてあげると使いどころはすごく出てくるんだろうなと。なんとなく、自分の中では同じジャンルに見えたんですよね。利益云々っていうのもあるんですけど、やってみたい思いが強かったっていうのはありますね。」

そして立ち上げたのが、「おかえり集学校プロジェクト」。

廃校をIT交流施設として、もう一度、地域の人が集まれる場所に生まれ変わらせたいと始めたのです。

舟形町広報担当「色んな世代が一つの場所で集えるのは良いのかなと思います。」

町内に移住・企業した男性「コワーキングスペース的にこちらに来て仕事ができれば、とても助かりますね。」

地域住民の高齢女性「近くに先生がいるので、もっともっと(パソコンやスマホの勉強を)やりたいと思って。」

町の人たちはどう利用し、暮らしにどんな変化が生まれたのか。2017年からスタートした集学校、その歩みを見つめます。

 

2017年4月、最初の集学校がスタートしました。

旧長沢小学校。元々は、明治時代から2013年まで続いた、歴史のある学校でした。

集学校のある舟形町は、山形県、最上地方にあります。

中央には一級河川の最上小国川が流れる、自然豊かな町です。

国宝に指定される、縄文の女神も出土。有史以前からの古い歴史があります。

高齢化率が39パーセントという過疎の町。今いる住民のより良い生活のために集学校の開校を決めたといいます。

森町長「この校舎に対する思い出というのは本当に強いものがあります。それが、形は残っても校舎として使われなければちょっと悲しい部分があるのですが、ほとんど同じような内容で使われ、しかも新しい集学校という形で、子どもたちだけではなく、地域のお年寄りにも教えていただけるということで、これは素晴らしい使い方だと思います。たいへん期待しています。」

地域住民の男性「これ、中見れるんじゃないの?」

地域住民の男性「パソコン分解するとこうなるんだよ。」

インターネットなどのIT技術は、場所を選びません。しかし、その技術に触れる場所がありませんでした。

集学校は、舟形町のような場所にこそ、パソコンやスマホを活用することで、暮らしを便利で快適なものにできると考えています。

 

この日、集学校でドローンの体験講習会が行われました。

秋田や仙台など、地方都市からも多くの人が参加。

男性は、舟形町の出身で、現在は県外に住んでいます。里帰りを兼ねてやってきました。

県外に住む男性「なんで舟形?って。本当に舟形?別の長沢じゃないのって。うれしくなって申し込みして。」

町外に住む男子学生「山形だと仙台とかまで行かないとなかなか学べなかったり、もっと東京方面行かないと学べないものが、舟形町の人が近くでできるのは良いと思います。」

 

学校といっても、学ぶばかりではありません。

お年寄りから、働き盛りに、小さなお子さん、色んな人が、それぞれの目的で集まれる、地域のよりどころを目指します。

地域住民の高齢男性「学校卒業してから(校舎内に)入ったことない。子どもを遊ばせる保育園みたいになると良いよね。」

地域住民の女性「最近やっとスマホに変えたばっかりで、やっぱり随分乗り遅れていたなって思うし、できれば早いうちに覚えていた方が良かったなと。」

子ども連れの女性「(子どもが)遊べるスペースが町にないんですよね。大きい市だと子どもが遊べる広場があるんですけど、舟形町にもそういう所が屋内であれば良いなという思いがあって。」

集学校は、生活に密着し、ITを身近に感じられる場所です。

代表・碇「いわゆる買い物難民と呼ばれる人のことを考えると、amazonで買い物できたら本当は楽で便利なはずなんです。都市部の人はデータや、使っている・教えてくれる人がいるので成立しているんですが、地方ほど情報も物も少なくてほとんど使われていないので、例えば『amazonって何?』『何を使えば買えるの?』となる。でも本当だったら、お店から遠いとか、車を持っていない、足腰が悪い方こそ使えた方が良いはずなんですよね。」

 

現在、山形県のほかに、千葉県にある集学校。それぞれの市町村に合った在り方を模索しています。

 

2019年4月、2校目の開校式が行われました。

千葉県中央部にある長南町。昔ながらの自然が残り、歴史ある神社仏閣も多い、風光明媚な町です。

2013年に圏央道が開通、東京までおよそ1時間と、交通の便も恵まれています。

住人には、家族で移住してくる人も少なくありません。

夫婦「うちは2人とも近隣からの移住です。」

町内に移住・企業した男性「すごく田舎の良さが残っているので、東京の利便性と自然の豊かさが残っているところが魅力。便利で過ごしやすいです。」

山形県の舟形町とは、町の雰囲気も、抱える問題も全く違います。

 

集学校には、常駐スタッフ、校長がいます。校長の鈴木は、4月からこの町に住み始めました。

鈴木は、1件1件を尋ね、住人がどんなことを思い、どんな困りごとを抱えているのか、聞いていきます。

鈴木「長南集学校の鈴木と申します。スマートフォン教室とかやってますので…。」

ITといっても、ツールも使い方も、人それぞれです。

鈴木「新しいらくらく(スマート)フォンだとLINEとかもできるんですか?」

店主の女性「はい。」

鈴木「じゃあ、(よく使用するのは)電話と、メールと、LINEと?」

店主の女性「そうです。何でも何かやっちゃうと…大丈夫かなって感じがあるから。」

鈴木「もしご不安なときとかあったらいつでもご連絡ください。全部無料でやってますので。」

鈴木が校長になったのには、ある理由が。

鈴木「8月の三味線、練習してるんですけど、スピードが…。」

地域住民の高齢男性「(鈴木さんが)親子で津軽三味線練習してくれてます。」

2人のお子さんの、お母さんなんです。子育てを、自然豊かな環境でやりたいと考えていました。

鈴木「子どもたちも一緒に三味線やったり楽しんでいるので、来て良かったなと思います。」

 

もう一つ、ある思いがありました。

鈴木「パソコンが新座から届いたので持っていく前にテストしようと思って。」

自分と同じような年代の女性のために、町で働く場所を作ろうというのです。地元で仕事を探していたという女性も、開校のときから鈴木と働いています。

鈴木「この学校出身だもんね。」

スタッフ「はい。」

鈴木「色々教えてもらっています。町のことを。」

将来はここに、リングローの本社業務の一部も持ってきたいといいます。

 

1校目の集学校が本格的に動き始めたのは、3年前の2016年。

当初から関わってきた、舟形町の沼澤さん。住人に受け入れてもらえるのか、気がかりでした。

沼澤さん「全く本当に雲を掴むようなことで…。何をしに、何を狙いにしているのかな?とはみんな思ったと思います。何よりそのときの町長が大事にしていたのは、地元の人の理解が得られて使っていただけるのであれば前向きにということだったので。何件かその前にも色んな話があって、そこで住民の理解を得られなかったということがあって…。」

 

2016年からこの町に住み、町の人との関わりを模索し続けてきた、甲州。

東京では、営業職。山形の生まれで、いつかは戻りたいと校長に立候補しました。集学校の仕事は全て手探りでした。

甲州「とりあえずもう行くしかないかなと。行かないと何すれば良いか分からないんで、もう行って良いですか?って社長に話して。行って、やる場所があるなら良いよ、と。隣の学習センターの一室を貸してくれる話になったので、じゃあ行こうって言って。」

無料の講習会や、パソコン教室を開いて、住民一人ひとりと向き合う時間を作っていきました。

それでも、一筋縄ではいかないものです。

地域住民の女性「あの…お金は…。」

甲州「気にしなくていい。今のところ。」

地域住民の女性「今のところ?入学金とか月謝とか…。」

集学校の運営は、一体どういうものか、そしてどう利用すれば良いのか、戸惑う人は少なくありません。

甲州「気軽に来て自分で学んでいくって感じでやりたいんです。うちのお金の部分は、それこそパソコン買ってくださいっていうところになる。そこからパソコンの販売・修理・買取とかで収益を考えているんで。」

地域住民の女性「そうなんですね、どうしてるのかなって心配になっちゃって。」

甲州「やっぱり使ってもらわないとね。もともとうちはパソコンを売る会社なので。」

地域住民の女性「それで納得しました。」

 

町の行事にも積極的に参加します。

甲州「パソコン以外からの交流の方がしっくりくるなと思って。『パソコン売るために来たんだべ』とか『工場にするのか?』とか、良くない所のイメージを持たれる方は少なからずいると思うんですけれども。これなら自分たちの生活がもっと楽しくなりそうだなというイメージがついて、笑って会(開校式)に参加してくれるところまで来れたのかなと思います。」

集学校が目指すのは、交流施設。人との繋がりが不可欠です。

代表・碇「どこぞの誰とも知らない人から物も買わないし、別に話も聞きたくないよというのは正直なところだと思うんです。それよりも、この人の話なら聞いてみたいというのは誰しもがあると思うので。一つひとつ知って分かってもらうのは本当に重要なんだなと思いましたね。」

 

開校して2年、住民の生活にも変化が…。

スマホで、LINEに挑戦中の大場さん。細かい機能を聞きに来ていました。

以前から興味があって、パソコンも買ったそうです。しかし、触り方が分からず、そのままになっていました。

大場さん「ここに来てかなり進んだと思う。手続き(セットアップ)はしてくれたけど全然使えなかったから。集学校があって良かったなって。」

長年ノートに書き溜めてきたレシピ。

今、スマホに整理し直しています。

 

行政として関わってきた沼澤さんは、新たな可能性を感じています。

沼澤さん「今までだったらお祭りも行事も自分たちでできていたけど、もはや町内会1つだけでは完結できなくなってくるんですね。そうした、いくつかまとまってみんなでやろうとなったときに、高齢化が進んで人が少なくなっても、(集学校があれば)今いる人たちが幸せに過ごせるんじゃないかと。そういった舵取り役も期待してます、実は。」

 

今や、ITはなくてはならないインフラのひとつ。技術は日々進歩、より複雑になっています。集学校が目指すのは、分からなくても使える仕組みを作ること。

それは、リングローにとっても、事業の幅を広げることに繋がります。2025年までに30校を開校、最低でも都道府県に1校の配置が目標です。

2019年現在、富山県と兵庫県に開校が決まっています。

今後は、全国の各校をネットワークで結び、ウェブサイトなどを活用し、知恵や工夫の共有を目指します。

スタッフにとっても働き方の選択肢が広がりました。やってきたのは、部活帰りの校長の長男。

ここに来て、家族と過ごす時間が増えたといいます。

 

地元の山形で校長になった甲州は。

甲州「今までのリングローでの働き方とやっぱり変わってきています。町の人とどうこう、役場とどうこうとか考えたことなかったですもんね。やっぱり長期的な考えになってきます。ここの利用客の半分以上が子どもたちになってきている気がしますね。こっち(舟形町)に残る、外に出て行く、色んな選択肢があると思うんですけれども。そのときに自分の町でこんなことやってたなとか、この町に住んでいるんだったらここ利用して分からないこと聞けるなとか、認知が進んでいけば活用はどんどんされていくかなと。」

 

集学校には、一番大切にしていることがあります。

それは、学校の思い出。

地域住民の女性「修学旅行って当時からあったんだね。」

地域住民の高齢女性「2クラスあったよ、私らのときまで。」

学校の歴史は、地域の歴史そのもの。思い出や記録を未来に繋いでいきます。

「♪~強く正しく 清らかに 学びの庭に 希望あり ああ ああ 我らの母校 長南小学校 栄えあれ」

学校がもう一度、地域に帰っていく。

それが、「おかえり集学校プロジェクト」です。